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CommonNoun’s diary

予習をする。原典にあたる。

Alexandroff-Urysohn の距離化定理

 以前紹介した Urysohn の距離化定理は初等的な距離化定理として有名ですが、あれが最初の距離化定理というわけではありません。今回は最初の距離化定理といわれている定理の話をします。


 位相空間はすべて { \displaystyle T_1 } とする.

 距離の公理の第三のもの,いわゆる三角不等式について,典型的な議論ではフルパワーで用いられていないと感じはしないだろうか.典型的な議論というのは,{ \displaystyle a_1,a_2, \dots ,a_n } について添字が隣り合うものの距離が十分小さくできれば { \displaystyle d( a_1, a_n ) } も十分小さくできる,というようなものである.これは三角不等式を次のもので置き換えてもできる.
 3 点 { \displaystyle a,b,c } に対して,{ \displaystyle d(a,c) \le 2 \max \{ d(a,b), d(b,c) \} } となる.

 

 だが実は三角不等式の代わりにこの条件を満たす「距離関数」により位相を定めた空間は自然なやり方で距離空間となる.

定理.(Chittenden) 集合 { \displaystyle X } に対し次の条件を満たす関数 { \displaystyle \delta \colon X \times X \to [ 0, \infty ) } が存在するとする.
 i) { \displaystyle a,b \in X } について { \displaystyle \delta (a,b)=0 \Leftrightarrow a=b}
 ii) { \displaystyle a,b \in X } について { \displaystyle \delta (a.b)= \delta (b,a) }
 iii) { \displaystyle a,b,c \in X } について { \displaystyle \delta (a,c) \le 2 \max \{ \delta (a,b), \delta (b,c) \} }

 このとき任意の { \displaystyle a,b \in X } について { \displaystyle d(a,b) \le \delta (a,b) \le 4d(a,b) } となるような距離関数 { \displaystyle d } が存在する.

 

証明. { \displaystyle a,x_1 , \dots ,x_n ,b }{ \displaystyle X } の点とすると
 { \displaystyle \delta (a,b) \le 2 \delta (a, x_1 )+ 4 \sum_{i=1}^{n-1} \delta (x_i, x_{i+1} )+ 2 \delta (x_n , b) \dots (1) }
である.これを示そう.背理法による.

 

 (1) が成り立たない最小の { \displaystyle n } の値があるので,それを { \displaystyle N } とする.条件 iii) より
 { \displaystyle \delta (a,b) \le 2 \delta (a, x_1 )+ 2 \delta (x_1 , b) }
であるから { \displaystyle N>1 } である.

 { \displaystyle \delta (a,b) > 2 \delta (a, x_1 )+ 4 \sum_{i=1}^{N-1} \delta (x_i, x_{i+1} )+ 2 \delta (x_N , b) }
となるような { \displaystyle a,x_1 , \dots ,x_N ,b } が存在し,各 { \displaystyle r=0, \dots ,N } について { \displaystyle \delta (a,b) \le 2 \delta (a, x_r ) } または { \displaystyle \delta (a,b) \le 2 \delta (x_r , b) } のどちらかが成り立つ.後者の式を (2) とおく.

 

 { \displaystyle r=0 } とすると { \displaystyle \delta (a,b) > 2 \delta (a, x_0 ) } であったから (2) が成り立つ.同様に { \displaystyle r=N } とすると (2) は成り立たない.(2) が成り立つような { \displaystyle r } の最大値を { \displaystyle k } とする.{ \displaystyle k < N },{ \displaystyle \delta (a,b) \le 2 \delta (x_k , b) },{ \displaystyle \delta (a,b) \le 2 \delta (a, x_{k+1} ) } となる.よって { \displaystyle \delta (a,b) \le \delta (a, x_{k+1} )+ \delta (x_k , b) } である.

 

 { \displaystyle n < N } に対して (1)は成り立つので
 { \displaystyle \delta (x_k , b) \le 2 \delta (x_k , x_{k+1} )+ 4 \sum_{i=k+1}^{N-1} \delta (x_i, x_{i+1} )+ 2 \delta (x_N , b) }
 { \displaystyle \delta (a,x_{k+1} ) \le 2 \delta (a, x_1 )+ 4 \sum_{i=1}^{k-1} \delta (x_i, x_{i+1} )+ 2 \delta (x_k , x_{k+1} ) }
であり,辺々足して先の不等式と併せることで
 { \displaystyle \delta (a,b) \le 2 \delta (a, x_1 )+ 4 \sum_{i=1}^{N-1} \delta (x_i, x_{i+1} )+ 2 \delta (x_N , b) }
となり,これは矛盾である.よって示された.

 

 { \displaystyle a,b \in X } について,{ \displaystyle d(a,b)= \inf ( \delta (a, x_1 )+ \sum_{i=1}^{n-1} \delta (x_i, x_{i+1} )+ \delta (x_n , b) ) } とする.ただし下限はすべての正整数 { \displaystyle n } とすべての { \displaystyle x_1 , \dots ,x_n } の選び方にわたる.すると上の主張より { \displaystyle d(a,b) \le \delta (a,b) \le 4d(a,b) } である.{ \displaystyle d } は明らかに距離の公理をすべて満たす. //

 

定義. { \displaystyle \mathscr{U} } を集合 { \displaystyle X } の部分集合族,{ \displaystyle A \subset X } とするとき,{ \displaystyle \mathrm{St} (A, \mathscr{U} )= \bigcup \{ U \in \mathscr{U} \mid U \cap A \neq \varnothing \} } とおき,これを { \displaystyle A }{ \displaystyle \mathscr{U} } に関する星という.{ \displaystyle A } が 1 点集合 { \displaystyle \{ x \} } のとき中括弧を省略して書く.位相空間 { \displaystyle X } において被覆の列 { \displaystyle \mathscr{U} _1 , \mathscr{U} _2 , \dots  } は任意の { \displaystyle x \in X } について { \displaystyle \{ \mathrm{St} (x, \mathscr{U} _i ) \mid i \in \mathbb{Z} _+ \} }{ \displaystyle x } の近傍基をなすとき被覆の基本列であるという[ここだけの用語である].開被覆からなる被覆の基本列は展開列と呼ばれる[こっちはいくらか一般的な用語,児玉永見に載っていた development の訳語].展開列をもつ空間を展開空間という.

 

 1923 年 Alexandroff と Urysohn は上の命題を用いて次の定理を証明し発表した.最初の距離化定理として知られている.

定理.(Alexandroff-Urysohn) 位相空間が次の条件をみたすような被覆の基本列 { \displaystyle ( \mathscr{U} _i )_i } をもつとする.
 (正則性) { \displaystyle n \in \mathbb{Z} _+ } ,{ \displaystyle U, U^{ \prime } \in \mathscr{U} _{n+1} },{ \displaystyle U \cap U^{ \prime } \neq \varnothing } ならば { \displaystyle U^{ \prime \prime } \in \mathscr{U} _n } であって { \displaystyle U \cup U^{ \prime } \subset U^{ \prime \prime } } となるようなものがある.
 このとき { \displaystyle X } は距離化可能である.
 

証明. { \displaystyle \mathscr{U} _0 =X } とおく.{ \displaystyle a,b \in X } について,{ \displaystyle n }{ \displaystyle a,b \in U } となるような { \displaystyle U \in \mathscr{U} _n } が存在するような非負整数すべてにわたるとして { \displaystyle \delta (a,b)= \inf 2^ {-n} } とする.{ \displaystyle \delta } が Chittenden の定理の ii) を満たすことは明らかである.{ \displaystyle  \mathscr{U} _n } が基本列をなすことから i) も満たされ各点でこの { \displaystyle \delta } による { \displaystyle \epsilon } 近傍は近傍基をなす.iii) は正則性から従う.

 よって Chittenden の定理より { \displaystyle X } は距離化可能である. //

 

 すべての { \displaystyle 2^{-n} } 近傍からなる被覆を考えることで,逆も成り立つことが知られる.

 ここで構成される距離は次のようなものとして記述できる.ある点から,全体集合という一元集合を 0 番目として付け加えた被覆の基本列で { \displaystyle n } 番目のものに属する元でその点と別のある点を含むものをとって,その別の点に,コスト { \displaystyle 2^ {-n} } を支払うことで移動できるとし,2 点間の距離はこのような移動の繰り返しで片方から他方へ行くのにかかるコストの合計の下限として定まる.

 

 上の証明からは定理として言明したより多くのことがわかる.たとえば,三角不等式を満たすと限らない「距離関数」が各点で { \displaystyle \epsilon } 近傍を近傍基とすることで位相を定めているような空間は半距離空間と呼ばれるが,正則展開空間(Moore 空間と呼ばれる)は半距離空間であることがわかる.さらに一様空間論を被覆系を用いて展開するときなどに中心的な役割を果たす「ゲージ化補題」(誰が呼んだか知らないが)において問題となる擬距離(異なる点に対して 0 を返しうる「距離関数」;{ \displaystyle \epsilon } 近傍が開であることも課しておこう)はまさに上のようにして構成される.

 

記号. 集合 { \displaystyle X } の部分集合族 { \displaystyle \mathscr{U} } について { \displaystyle \mathscr{U} ^{ \Delta } =\{ \mathrm{St} (x, \mathscr{U} ) \mid x \in X \} },{ \displaystyle \mathscr{U} ^{*} =\{ \mathrm{St} (U, \mathscr{U} ) \mid U \in \mathscr{U} \} } とおく.

定理.(ゲージ化補題) { \displaystyle ( \mathscr{U} _n ) _n }{ \displaystyle \mathscr{U} _{n+1}^* < \mathscr {U} _n } (細分する)なる空間 { \displaystyle X }開被覆の列とする.このとき X の擬距離 { \displaystyle d } が存在して,そのすべての { \displaystyle 2^{-n} } 近傍がなす被覆 { \displaystyle \mathscr{V} _n } が各 { \displaystyle n } について { \displaystyle \mathscr{U} _{n+1}^{ \Delta } < \mathscr{V} _n < \mathscr{U} _n^{ \Delta } } ならしめる. //


 

記号を導入したついでに Alexandroff-Urysohn の定理の別の形も紹介しよう.

定義. 空間 { \displaystyle X } の任意の開被覆 { \displaystyle \mathscr{U} } に対しある開被覆 { \displaystyle \mathscr{V} } が存在して { \displaystyle \mathscr{V} ^{ \Delta } < \mathscr{U} } となるとき { \displaystyle X } は全体正規であるという.

定理. 全体正規展開空間は距離化可能である. //

 「第一可算っぽい」性質と「全体正規っぽい」性質を併せると距離化可能が出ると言明する定理はよく見る.これはその代表例と言えよう.Bing や Arhangel'skii などによるより強い結果も知られている.ちなみに全体正規空間はパラコンパクトでありパラコンパクト Hausdorff 空間は全体正規である.