読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

CommonNoun’s diary

予習をする。原典にあたる。

Baire の範疇定理、そしてその(おそらく)最初の応用

 2 年ちょい前くらいに、友人から「Dirichlet 関数(有理数全体の集合の特性関数)は連続関数の列の各点収束極限として書けるか?」と聞かれたことがありました。そのときはできるっぽいという結論が出たのですが、実はできません。「単位閉区間上の連続関数の列の各点収束極限は連続点をもつ」という事実の故にです。その事実は私が大好きな定理を使って証明できるのでご紹介します。原論文は読んでいないのでタイトルに書いてあることは憶測です. 


  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


定理(Baire). 
 完備距離空間の可算個の稠密開部分集合は稠密な交叉をもつ.

 これは「完備距離空間の内点をもたない可算個の閉集合の合併は内点をもたない」と言い換えることができる.

 

証明. 
 { \displaystyle (X, \rho ) } を完備距離空間{ \displaystyle V_0, V_1, \dots }{ \displaystyle X } の稠密開部分集合とする.{ \displaystyle W }{ \displaystyle X } の空でない開集合とする.{ \displaystyle W \cap \bigcap V_i \neq \varnothing} であることを示す. 

 { \displaystyle V_0 } は稠密なので { \displaystyle W \cap V_0 } は非空で,{ \displaystyle x_0 \in W \cap V_0 } であるような { \displaystyle x_0 } が存在する.{ \displaystyle W \cap V_0 } は開なので,{ \displaystyle B( x_0, r_0^{ \prime } ) \subset W \cap V_0 } となるような { \displaystyle r_0^{ \prime } > 0 } がある.{ \displaystyle r_0 = \min \{ \frac {r_0^{ \prime } } {2} , \frac{1}{2} \} } とすると { \displaystyle \mathrm{Cl} B( x_0, r_0 ) \subset W \cap V_0 } かつ { \displaystyle 0 < r_0 < 1 } となる. 

 

 { \displaystyle n \ge 1 } について,{ \displaystyle x_{n-1} \in X }{ \displaystyle 0 < r_{n-1} < \frac{1}{n} } なる { \displaystyle r_{n-1} } が選ばれているとすると,{ \displaystyle V_n } は稠密なので,{ \displaystyle V_n \cap B( x_{n-1}, r_{n-1} ) } は非空なのでその元 { \displaystyle x_n } をとることができる.また開なので { \displaystyle B( x_n, r_n^{ \prime } ) \subset V_n \cap B(x_{n-1}, r_{n-1} ) } となるような { \displaystyle r_n^{ \prime } > 0 } がある.{ \displaystyle r_n = \min \{ \frac {r_n^{ \prime }}{2}, \frac{1}{n+2} \} } とすると { \displaystyle \mathrm {Cl} B( x_n, r_n ) \subset V_n \cap B( x_{n-1}, r_{n-1} ) } かつ { \displaystyle 0< r_n < \frac{1}{n+1} } となる.

 こうして帰納的に*1{ \displaystyle \mathrm{Cl} B(x_0, r_0) \subset W \cap V_0 }, { \displaystyle \mathrm{Cl} B(x_n, r_n) \subset V_n \cap B( x_{n-1}, r_{n-1} ) }, { \displaystyle 0< r_n < \frac {1}{n+1} (n \ge 1) } であるような点列 { \displaystyle \{ x_n \} } を得る.{ \displaystyle i,j > n } とすると { \displaystyle x_i \in B( x_n, r_n ), x_j \in B( x_n, r_n ) } より { \displaystyle \rho ( x_i, x_j ) < 2r_n < \frac{2}{n+1} } であり,従って { \displaystyle \{ x_n \} } は Cauchy 列となる.{ \displaystyle X } は完備であったから,{ \displaystyle x= \lim x_n } であるような点 { \displaystyle x \in X } がある. 

 { \displaystyle i>n } ならば { \displaystyle x_i \in \mathrm{Cl} B( x_n, r_n ) } であるから { \displaystyle x \in \mathrm{Cl} B( x_n, r_n ) \subset V_n } がすべての { \displaystyle n } について成り立ち,また { \displaystyle x \in \mathrm{Cl} B( x_0, r_0 ) \subset W } なので { \displaystyle x \in W \cap \bigcap V_i } となる.これで証明は完成した. // 

以下で { \displaystyle I= [ 0,1 ] } とする.

定理. 
 単位閉区間上の実数値連続関数全体の集合 { \displaystyle C(I) } の関数列 { \displaystyle \{ f_n \} } の各点収束極限 { \displaystyle f } の不連続点全体の集合は内点をもたない.(よって,連続点が存在する.しかも稠密部分集合をなす.) 

証明. 
 { \displaystyle t \in I, \delta >0 } に対して { \displaystyle \omega (t; \delta) \colon = \sup \{ \lvert f(t^{ \prime } )-f(t^{\prime \prime}) \rvert \mid t^{\prime},t^{ \prime \prime } \in (t- \delta , t+ \delta ) \cap I \}  }, { \displaystyle \omega (t) \colon = \inf _{ \delta >0} \omega (t; \delta) }, { \displaystyle \sigma > 0 } に対して { \displaystyle A(\sigma ) \colon = \{ t \in I \mid \omega(t) \ge \sigma \} } とおく.{ \displaystyle A(\sigma ) } が閉であることを確かめるのは一本道である. 

 { \displaystyle \sigma >0 } とする.{ \displaystyle A( \sigma ) } が内点をもたないことを示す.内点をもつと仮定する.{ \displaystyle [ t_1, t_2 ] \subset A( \sigma ) } となるような { \displaystyle t_1 < t_2 \in I } がある.自然数 { \displaystyle n } について { \displaystyle V(n) = \{ t \in [ t_1, t_2 ] \mid i,j \ge n \Rightarrow \lvert f_i(t)-f_j(t) \rvert \le \frac{ \sigma }{4} \} } とおく.{ \displaystyle V(n) } は閉で { \displaystyle [ t_1, t_2 ] } を被覆する.

 { \displaystyle [ t_1, t_2 ] } は完備距離空間であるので,ある { \displaystyle n } について { \displaystyle V(n) } が内点をもつ.従って任意の { \displaystyle s \in (t- \delta , t+ \delta ) \cap [ t_1, t_2 ] }, { \displaystyle i,j \ge n } に対して { \displaystyle \vert f_i(s)-f_j(s) \rvert \le \frac{ \sigma }{4} } となる.{ \displaystyle f_n }{ \displaystyle f } に各点収束するのであったから,任意の { \displaystyle s \in (t- \delta , t+ \delta ) \cap [ t_1, t_2 ] } について { \displaystyle \lvert f_n(s)-f(s) \rvert \le \frac{ \sigma }{4} } が成り立つ. 

 一方 { \displaystyle f_n } の連続性より, { \displaystyle 0< \delta ^{ \prime } < \delta } であり, { \displaystyle t^{ \prime }, t^{ \prime \prime } \in (t- \delta ^{ \prime } , t+\delta ^{ \prime } ) } ならば { \displaystyle \lvert f_n(t^{ \prime } )-f_n(t^{ \prime \prime } ) \rvert < \frac{ \sigma }{4} } となるような { \displaystyle \delta ^{ \prime } } がある.このとき任意の { \displaystyle t^{ \prime }, t^{ \prime } \in (t- \delta ^{ \prime } , t+ \delta ^{ \prime } ) } に対して { \displaystyle \lvert f(t^{ \prime } ) - f(t^{ \prime \prime } ) \rvert \le \lvert f(t^{ \prime } ) -f_n(t^{ \prime } ) \rvert + \lvert f_n(t^{ \prime } ) - f_n(t^{ \prime \prime } ) \rvert + \lvert f_n(t^{ \prime \prime } ) - f(t^{ \prime \prime } ) \rvert < \frac{3 \sigma }{4} } が成り立つ. 

 よって { \displaystyle \omega (t; \delta ^{ \prime } ) \le \frac{3 \sigma }{4} < \sigma } なので { \displaystyle \omega (t) < \sigma } となるが,これは { \displaystyle t \in A( \sigma ) } に反する.

 以上より { \displaystyle A( \sigma ) } は内点をもたない.{ \displaystyle I } は完備距離空間であるから内点をもたない閉集合の可算合併として { \displaystyle \{ t \in I \mid \omega (t) >0 \} } は内点をもたない.これは { \displaystyle f } の不連続点の集合である. //

  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 よく知られているように、余弦関数を使うことで Dirichlet の関数は連続関数の各点収束極限関数の各点収束極限として書くことができる。距離空間では部分集合の点列の極限点からなる点列の極限点はその部分集合の点列の極限点として書けるのであった。このことから、各点収束を含めた収束概念を捉えようと思うと距離空間という概念では不十分であることがわかる。この辺りからも位相空間のようなより一般的な空間概念を考える必要性が出たのではないか、と考える次第である。

*1:厳密には従属選択公理"非空集合 { \displaystyle X } 上の二項関係 { \displaystyle R } が「任意の { \displaystyle x \in X } に対してある { \displaystyle y \in X } が存在して { \displaystyle xRy }」を満たすとき,任意の { \displaystyle n } に対して { \displaystyle x_n R x_{n+1} } となるような { \displaystyle X } の元の列 { \displaystyle \{ x_n \} } が存在する"を使っている.従属選択公理と Baire の定理は ZF 上同値であることが知られている.