Baire の範疇定理、そしてその(おそらく)最初の応用
2 年ちょい前くらいに、友人から「Dirichlet 関数(有理数全体の集合の特性関数)は連続関数の列の各点収束極限として書けるか?」と聞かれたことがありました。そのときはできるっぽいという結論が出たのですが、実はできません。「単位閉区間上の連続関数の列の各点収束極限は連続点をもつ」という事実の故にです。その事実は私が大好きな定理を使って証明できるのでご紹介します。原論文は読んでいないのでタイトルに書いてあることは憶測です.
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定理(Baire).
完備距離空間の可算個の稠密開部分集合は稠密な交叉をもつ.
これは「完備距離空間の内点をもたない可算個の閉集合の合併は内点をもたない」と言い換えることができる.
証明.
を完備距離空間, を の稠密開部分集合とする. を の空でない開集合とする. であることを示す.
は稠密なので は非空で, であるような が存在する. は開なので, となるような がある. とすると かつ となる.
について, と なる が選ばれているとすると, は稠密なので, は非空なのでその元 をとることができる.また開なので となるような がある. とすると かつ となる.
こうして帰納的に*1,, , であるような点列 を得る. とすると より であり,従って は Cauchy 列となる. は完備であったから, であるような点 がある.
ならば であるから がすべての について成り立ち,また なので となる.これで証明は完成した. //
以下で とする.
定理.
単位閉区間上の実数値連続関数全体の集合 の関数列 の各点収束極限 の不連続点全体の集合は内点をもたない.(よって,連続点が存在する.しかも稠密部分集合をなす.)
証明.
に対して , , に対して とおく. が閉であることを確かめるのは一本道である.
とする. が内点をもたないことを示す.内点をもつと仮定する. となるような がある.自然数 について とおく. は閉で を被覆する.
は完備距離空間であるので,ある について が内点をもつ.従って任意の , に対して となる. は に各点収束するのであったから,任意の について が成り立つ.
一方 の連続性より, であり, ならば となるような がある.このとき任意の に対して が成り立つ.
よって なので となるが,これは に反する.
以上より は内点をもたない. は完備距離空間であるから内点をもたない閉集合の可算合併として は内点をもたない.これは の不連続点の集合である. //
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よく知られているように、余弦関数を使うことで Dirichlet の関数は連続関数の各点収束極限関数の各点収束極限として書くことができる。距離空間では部分集合の点列の極限点からなる点列の極限点はその部分集合の点列の極限点として書けるのであった。このことから、各点収束を含めた収束概念を捉えようと思うと距離空間という概念では不十分であることがわかる。この辺りからも位相空間のようなより一般的な空間概念を考える必要性が出たのではないか、と考える次第である。