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CommonNoun’s diary

予習をする。原典にあたる。

Urysohn の距離化定理とその周辺 その 2

数学

 反例パートです。ご存知でしょうが反例とは何らかの(成り立ちそうな)主張に対し、その例の存在により主張が成り立たないことが示される例のことです。つまりヘンな位相空間/群/環/etc. とかヘンな写像とかそういうものです。

 又聞きですが 20 世紀最大の数学者 Grothendieck は言ったそうです。位相空間は病的なものがあるから空間概念としてダメだと。しかし一方でその事実は、位相空間を、空間概念を定式化するための道具にとどまらず、それ自身魅力的な研究対象とするものでした。

 例えば以下で見るように正規空間の積は(実は完全正規パラコンパクトのような強い仮定のもとであってさえ)正規とは限りません。これは、積空間の正規性は因子空間に強い影響を及ぼすということに他ならないでしょう。その話題は多くの人を惹き付けて、それについて興味深い結果がいくつも生まれたようです。

 

 病的な空間が存在するほどに、位相空間論は魅力を増すと私は考えています。以下いくつか反例たちを見ていきます。参考文献は Steen-Seebach "Counterexamples in Topology"



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例. (Sorgenfrey 直線) 
 { \displaystyle \mathscr{S} = \mathbb{R} } において { \displaystyle (a,b ] (a,b \in \mathbb{R}, a < b ) } の形の集合すべてを開基として指定する.これは 0 次元可分だが第 2 可算でない.ゆえに距離化不能である.

 { \displaystyle \because ) } { \displaystyle \mathscr{B} } を開基とする.すべての { \displaystyle p \in \mathscr{S} } について,ある { \displaystyle V_p \in \mathscr{B} } が存在して { \displaystyle p \in V_p \subset ( \infty ,p ] } となる.{ \displaystyle q > p } に対し { \displaystyle q \in V_q, q \notin V_p } より { \displaystyle V_p \neq V_q } である.よって { \displaystyle \mathscr{S} \to \mathscr{B} ; p \mapsto V_p }単射となる. //

 

 この例は(本質的に) Alexandroff による,と伝えられている.Sorgenfrey はこの空間が,パラコンパクトでありながら 2 つの積がパラコンパクトでないという性質をもつことを示した.この空間 2 つの積が正規でない(特にパラコンパクトでない)ことを示そう.

 

 { \displaystyle \mathscr{S}^2 } が正規であると仮定する.{ \displaystyle \Delta = \{ (x,y) \in \mathscr{S}^2 \mid x+y=0 \} } は離散閉部分集合である.Tietze の拡張定理よりすべての { \displaystyle f \colon \Delta \to 2 \hookrightarrow I }連続写像 { \displaystyle F \colon \mathscr{S}^2 \to I } に拡張するので,連続写像の集合の濃度について { \displaystyle \lvert C( \mathscr{S}^2, I ) \rvert \ge 2^{\lvert \Delta \rvert} = 2^{ \mathcal{c} } } である.

 一方で { \displaystyle \mathscr{S}^2 } は有理点全体 { \displaystyle \mathbb{Q}^2_{ \mathscr{S} } } という可算稠密部分集合をもち,{ \displaystyle \lvert C( \mathscr{S}^2, I ) \rvert \le \lvert C( \mathbb{Q}^2_{ \mathscr{S} }, I ) \rvert \le \mathcal{c} } となって矛盾を生じる. //

 

 なお Sorgenfrey 直線の有理点全体 { \displaystyle \mathbb{Q}_{ \mathscr{S} } } は可算個の点からなる第 1 可算空間なので第 2 可算であり 0 次元なので正則で距離化可能となる.そして孤立点をもたないので { \displaystyle \mathbb{Q} } に同相である.{ \displaystyle \mathbb{Q}_{ \mathscr{S} } }{ \displaystyle \mathbb{Q} } と台集合を同じくするが真に強い位相をもつことに注意せよ.

 
 

 これから,連続濃度の離散閉部分集合をもつ可分空間は正規でないことがわかる.例えば定義はしないが Moore-Niemytski-van Dantsig bubble plane など.また Sorgenfrey 直線の積について,{ \displaystyle \Delta } の有理点と無理点が開集合で分離されないことが,Baire の範疇定理を用いることでわかる.これも同様の議論が Moore plane に通用する.

 正規性は部分空間に継承されることも一般にはない.
例. (Tychonoff の板)
 { \displaystyle ( \omega_1 +1 ) \times ( \omega +1 ) = [ 0, \omega_1 ] \times [ 0, \omega ] } (これはコンパクト Hausdorff である)から 1 点 { \displaystyle ( \omega_1 , \omega ) } を除いたものにおいて,{ \displaystyle \{ \omega_1 \} \times [ 0, \omega ) }{ \displaystyle [ 0, \omega_1 ) \times \{ \omega \} } は開集合によって分離できない.

 { \displaystyle U \supset \{ \omega_1 \} \times [ 0, \omega ) } を開とする.各 { \displaystyle n } について { \displaystyle ( \alpha_n , \omega_1 ] \times \{ n \} \subset U } なる { \displaystyle \alpha_n < \omega_1 } がある.{ \displaystyle \bar{ \alpha } = \sup \alpha_n } とすると { \displaystyle \bar{ \alpha } < \omega_1 } となる.{ \displaystyle ( \bar{ \alpha } , \omega_1 ] \times [ 0, \omega ) \subset U } なので { \displaystyle U \cap [ 0, \omega_1 ) \times \{ \omega \} \neq \varnothing } である. //

 

 ここまで挙げた例はいずれも完全正則である.完全正則性は積と部分空間をとる操作について閉じているからである.正規でない完全正則空間が与えられると,似た性質をもつ完全正則でない正則空間を生み出すことができる.

Jones Machine
 { \displaystyle X } を非正規空間,{ \displaystyle H }{ \displaystyle K } を分離されない非交叉閉集合とする.{ \displaystyle X_0, X_1, \dots }{ \displaystyle X } のコピーとする.{ \displaystyle H_i, K_i }{ \displaystyle X_i } の中の { \displaystyle H, K } とする.奇数の { \displaystyle i } について { \displaystyle K_i }{ \displaystyle K_{ i+1 } } の対応する点を,偶数の { \displaystyle i } について { \displaystyle H_i }{ \displaystyle H_{ i+1 } } の対応する点をそれぞれ同一視する.

 点 { \displaystyle \infty } を付加し,{ \displaystyle \{ \infty \} \cup \bigcup_{ i \ge k } X_i }{ \displaystyle \{ \infty \} } における基本近傍系とすることで位相を入れる.

 

 この空間から単位閉区間への連続写像で,{ \displaystyle f( \infty ) =1 , f(X_0)=\{ 0 \} } となるようなものは存在しない.それを証明しよう.

定義.
 { \displaystyle H }{ \displaystyle K }位相空間 { \displaystyle X } の非交叉閉部分集合とする.{ \displaystyle H } の閉部分集合 { \displaystyle H_0 } は,すべての開集合 { \displaystyle U \supset H_0 } について { \displaystyle \mathrm{Cl} U \cap K \neq \varnothing } となるとき { \displaystyle K } に関して強いという. 

補題. 
 { \displaystyle H }{ \displaystyle K }位相空間 { \displaystyle X } の非交叉閉集合{ \displaystyle H_0 }{ \displaystyle K } に関して強い { \displaystyle H } の閉部分集合で { \displaystyle U }{ \displaystyle H_0 } を含む開集合とすると,{ \displaystyle \mathrm{Cl} U \cap K }{ \displaystyle H } に関して強い.

証明. 
 { \displaystyle V \supset \mathrm{Cl} U \cap K } ,{ \displaystyle \mathrm{Cl} V \cap H \neq \varnothing } なる開集合 { \displaystyle V } が存在したと仮定する.{ \displaystyle U \setminus \mathrm{Cl} V }{ \displaystyle H_0 } を含む開集合で,その閉包は { \displaystyle K } と交わらない.これは { \displaystyle H_0 }{ \displaystyle K } に関して強いことに反する. //

 

連続写像の非存在の証明. 
 条件を満たす関数 { \displaystyle f } が存在するとする.{ \displaystyle t_0, t_1, \dots }{ \displaystyle \frac{1}{2} } に収束する { \displaystyle [ 0,1) } の中の狭義単調減少列とし { \displaystyle S_i = ( t_i, 1 ] } とおく.

 { \displaystyle \infty \in f^{-1} (S_0) }{ \displaystyle f^{-1} (S_0) } は開なので { \displaystyle X_n \subset f^{-1} (S_0) } となるような { \displaystyle n } がある.従って { \displaystyle H_j \subset f^{-1} (S_0) } となるような偶数 { \displaystyle j } がある.

 補題より { \displaystyle K_j \cap \mathrm{Cl} f^{-1} (S_1) }{ \displaystyle H_j } に関して強い.{ \displaystyle K_j = K_{j-1} } であるから { \displaystyle K_{j-1} \cap \mathrm{Cl} f^{-1} (S_1) }{ \displaystyle H_{j-1} } に関して強い.{ \displaystyle f^{-1} (S_2) }{ \displaystyle K_{j-1} \cap \mathrm{Cl} f^{-1} (S_1) } を含む開集合なので補題より { \displaystyle H_{j-1} \cap \mathrm{Cl} f^{-1} (S_2) }{ \displaystyle K_{j-1} } に関して強い. 

 これを { \displaystyle 2j } 回くらい繰り返すことで { \displaystyle X_1 \cap \mathrm{Cl} f^{-1} (S_m) \neq \varnothing } となるような { \displaystyle m } が得られ,{ \displaystyle \mathrm{Cl} f^{-1} (S_m) \subset f^{-1} ( S_{m+1} ) } であるから仮定に反する. //


 

 上の構成を,上方向に巻きながら貼り合わせていき無限遠点を付け加える操作と見なせば,さらに下方向にも巻きながら貼り合わせていき無限遠点を付け加えることで,その上の実数値連続関数が上下の 2 つの無限遠点で必ず同じ値をとるような空間を作ることができる.Tychonoff の板から作ったこのような空間は Tychonoff Corkscrew と呼ばれる.さらに Steen-Seebach "Counterexamples in Topology" 92 Hewitt's Condensed Corkscrew のようにして,その上の実数値連続関数がすべて定数であるような正則空間を構成することができる.任意の正規でない空間とその中の分離できない非交叉閉集合を出発点としてである.その構成は次のようにも述べられる.

 その上の実数値連続関数が定められた 2 点で必ず同じ値をとるような空間に対して,その空間の 2 つの点の組すべてに対応してその空間のコピーを用意し,それぞれのコピーの定まった 2 点を,そのコピーに対応する 2 点とそれぞれ同一視する.そうしてできた空間に対し,その 2 つの点の組すべてに対応してもとの空間のコピーを用意し,それぞれのコピーの定まった 2 点を,そのコピーに対応する 2 点とそれぞれ同一視する.これを可算回くり返すことで求める空間を作ることができる.

 

 正則でその上の実数値連続関数がすべて定数であるような空間だけでなく,第 2 可算でその上の実数値連続関数がすべて定数であるような空間も存在する.可算個の点からなる第 1 可算連結 Hausdorff 空間がそのようなものになる.理由は各々考えられたい.具体例としては Counterexamples~ の 60,61 などが挙げられる.連結 Hausdorff 可算空間については次のブログ記事が参考になろう.

concious4410.hatenablog.com

 正則第 2 可算ならば距離化可能で,従ってその上には豊富に関数が存在するわけだが,そのどちらの条件が欠けても,その上に定数以外の実数値連続関数が存在しないようなものが存在するということが分かる.

 因みに可算個の点からなる正則空間は距離化可能か,というとこれは成り立たず,例えば可算離散空間の 1 点コンパクト化を可算個用意してすべての無限遠点を同一視すると,できる空間はその同一視された点において第 1 可算でない.ただし,可算個の点からなる正則空間は必ず 0 次元となる.そう難しくないので試みよ.

 

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 「Urysohn の距離化定理とその周辺」は以上です。ありがとうございました。次回以降このブログの更新頻度は落としていきます。疲れるので。